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コラム「続・鳴小小一碗茶」report

2015年9月15日

単純さが、最上の「至福」をもたらしてくれる

――「さばぶし」+中国茶で、スープを作ったら‥‥

サロン風景の写真「さばぶし」。関東の一般家庭では、使うことの少ない(と思われる)ものである。

「花かつお」は、ダシをとるのを習慣としている家では、よく使うかと思うが、そのようなお宅でも、「さばぶし」はなかなか使わないと思う。
 この半年、ちょっとこっている。

 大阪、天満の市場で、夏のお豆腐(冷やっこ)などにと思って、乾物屋さんで「花かつお」を買った。その時、あまりにもきれいな「さばぶし」の削ったものが売られているので、お店の人に勧められるまま、ちょっとつまんで食べてみた。
 関東では、町中の乾物屋さんはほぼ消えてしまい、見ることはあまりないが、大阪の乾物屋さんはまだまだ威勢がよく、そこで「花かつお」とほぼ対等に扱われている。

「さばぶし」は、関東では少し生臭い感じがして、さばぶしだけをふりかけて使うことは、ほとんど経験しない。
 天満の店の人のすすめで、口に含んだ「さばぶし」は、魅力あるものであった。
 見た目は、上等の「花かつお」と見分けがつかないくらいきれいで、上品にすら感じる旨味があり、海の香りも軽く感じられ、塩気も微妙にある。

 それ以来、お豆腐に「さばぶし」をふりかけ、これまた愛用の京都・齋(いつき)造酢の「ポン酢」をかけて食べたり、「水なす」のきったものにふりかけたり、今は「おくら」の湯がいたものにふりかけ、ポン酢をかけて食べたりしている。
「さばぶし」、大活躍である。

 サロンの今年の年間企画で、中国茶でスープが作れないかと思い、7月、8月と挑戦してみた。
 スープといっても、日本でいえばお吸い物だが、それの具のないもの、だからお茶漬けにかけるお茶ないしお出し、あるいは中国料理でいえば、スープの素である「上湯」を作る試みである。
 上湯は、もちろんそのままでも飲めるが、それを調味料としても使い、あるいはそこからいろいろの具を入れたり、変化をさせてスープにしあげていくベースになるものである。

 世界中の料理の中で、すべてとはいかないだろうが、料理人の腕を見るのに一番確実なのは、中華でいえば「上湯」、和食でいえば「お出し」、西洋料理でいえば「スープストック」であるような気がする。他の料理の腕はだいたい察しがつく。

 中華でいえば、「上湯」の単純なスープ「清湯」のおいしいものを飲むと、至福を感じる。和食でいえば、おいしい「お出し」のそのままでもよい、あるいは単純な「お吸い物」を飲むと、本当に、「幸せ」な感じがする。大げさにいえば、「生きててよかった」と思う。

 ともかく、私は、この一番単純なスープが、最高の料理と思っている。「Simple is Best」。
「至福」を感じたければ、これだとすら思う。

 ところが、たいていの料理人は、高価な食材をその中に入れて、競いたがる。
 理由は、飲む人、食べる人がいけない。
 腕がさほどでもない料理人は、この素になるスープに何かを入れなければ、全体のおいしさをアップできないので、そうすることになるのだが、腕のよい料理人は、その必要がないはずだ。

 フカヒレを始め、松茸などの高級食材を入れるのは、確かに別のおいしさを味わうことはできるのだが、飲み手が「ありがたがる」、より高く「評価」するから、そうしているふしがある。

 飲み比べたらよい。私の好みかもしれないが、単純に塩だの若干の香辛料だので、味を調えられて、具の入らないものの方が、至福を感じることができる。

 お茶も同じである。
 お茶が十分においしければ、お茶だけで至福を味わうことができる。
 そこに、お菓子があったり、高級な道具があるよりは、おいしくいれるいれ手がいれた、おいしいお茶だけを飲むことが、まさに「至福」である。

 その至福感を、より際立たせるために、中国茶で、「上湯」「お出し」を作ろうと思った。
 7月には、江蘇省?陽の「碧螺春」を大きめのポットでいれ、別の同じ大きさのポットに、大阪・天満の市場で買った「花かつお」を入れ、そこに抽出したお茶を注いですぐに出す。
 8月には、「安溪鉄観音」を同じように「さばぶし」を使って作った。

 発想のキーポイントは、「旨味」の増幅である。どちらのお茶も、旨味があるお茶である。
「碧螺春」の方は、「花かつお」を使うことで、上品な仕上げに。
「安溪鉄観音」は、「さばぶし」を使うことで、少し力強さのある仕上げに。

 飲んだ方々は、「至福」を感じてもらえたかどうかはわからないが、京都の言葉でいう「はんなり」くらいの感じをもってもらえたようである。

「至福」は、飾ることだけで得られるものではない。
 単純さこそが、最上の「至福」をもたらしてくれるような気がする。
 単純ゆえに、感動も大きい。

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