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コラム「続・鳴小小一碗茶」report

2013年6月1日

人に会うこと。私を支えること。A

――上海・叙友茶荘社長は、うれしい話で。(上)

「私房茶」の写真 杭州から戻って、上海で頼んであったお茶を取りに、叙友茶荘のオフィスに寄った。上海での小売り茶荘としては、最大級の会社である。 
 他に廻らなければならないところもたくさんあるので、お茶だけを受け取って帰るつもりであったが、ちょうど社長がいるから会ってくれという。会ったら、「ちょうどお昼だから、食事を一緒にしよう」という。
 有名な紅茶の産地の方が、見本のお茶を持って商談に来ていたが、早々に腰を上げてしまい、一緒に出ようという。時間は気になるが、そこまで言われると断れない。

 彼とは、かれこれ17〜18年の付き合いになる。それほど頻繁に会うわけではないし、毎年会うわけでもない。でも、私と中国茶との付き合いの、どこかの節目、節目で、彼が登場することがある。
 再開したこのコラムの第一回(4月1日)に、昨年秋に会ったお茶、茶舗の社長として登場するのは、じつは彼である。

 過去、銘茶にはあがることはないが、おいしく、安い緑茶、「三杯香」(浙江省泰順)を教えてくれたのも彼である。彼の会社で扱う、手ごろな値段で買える、おいしい「安溪鉄観音」や、「安溪鉄観音」の「荒茶」のおいしさを教えてくれるきっかけを作ってくれたのも、彼である。

 よく、茶舗は信用できない、高い、という人も多く、茶農家から直接買うことを勧める人も多いし、それを実践している人もいる。
 しかし、一種類、二種類のお茶だったらそれもできるが、広い中国の数多くの銘茶のうちの数十の種類を、いつも入手しようと直接農家、生産者から買い付けをすることは、個人にとっては至難のことである。
 それ以前に、信頼でき、作り手としても名手の茶農家、あるいは現地メーカーを見つけることは、なお大変な作業になり、一般の人にはとてもむずかしい。

 各地のお茶市場では、すべてではないが、店舗によっては、銘茶といえども産地が違ったお茶を、また安全かどうかを確認できないままの状態で、顧客に売ることが、残念ながら日常よくやられていると聞く。
 防ぐためには、その店舗の主人と懇意になることだが、それには時間がかかることであり、一般の訪問者的な顧客には無理なことである。

 おいしいお茶、安全なお茶を見つけること、入手することは、自分の代わりに「おいしいお茶」を探してくれ、「安全なお茶」であることをチェックしてくれ、うそはつかない茶舗を見つけることが、個人としては近道である。
 多少値段は高くなっても、結果としてはリーズナブルなお茶も見つけてくれるので、時間と費用のことを思えば、逆に得かもしれない。

 ただ、簡単には見つからない。他のお茶舗のことをあげ、あそこは偽物を扱っていると、親切げに言う茶舗が、じつは多くの産地偽装の扱い者で、客扱いが上手だっただけ、という笑えない話も過去いくつも経験している。
 お茶舗に限らず、お茶の世界は、古今東西、人を中傷することが日常茶飯に行われている。それゆえ、同じ世界にいることが嫌になってしまうこともある。
 このところ、茶舗だけではなく、生産現場でも、「無農薬で作ってます」と言っていながら、陰にしまい忘れたのか、農薬の缶が置かれているなどということも、よく見ることだ。

 なにを信頼してよいのかは、このところますますわからなくなっているが、叙友茶荘は彼の方針からか、今までの付き合いから、ほぼ信頼できる扱いをしていると思っている。

 そんな叙友茶荘の社長と話をしていて、うれしい話が二つあった。
 4月1日に書いたように、昨年彼からもらった試作したお茶。「売るつもりもない」、ということで、その時が最後の出会いかと思っていた。今までの私の常識を覆したブレンドしたお茶であった。清らかな上品さと、澄んだおいしさを持ったお茶。
 評判がよいし、自信が出たので、販売することにした、という。

 思わず顔がほころんだ。また、会える。味わえる。
 私に、中国茶を続けさせる力をくれたお茶が一般市場に登場する。
「私房茶」。いいネーミングだ。7〜8年前から香港からスタートして、中国主要都市、台北でも今話題になっている、人気のレストランの形態「私房菜」からもじったものだ。
「私房菜」は、英語では「プライベート・キッチン」。自宅にいるような感じで、たいていは少ない人数で、楽しむレストランである。
 香港では、ミシュランが発行されるや、名だたる有名レストランに並んで、ランクインする「私房菜」も登場した。

 この「私房茶」。安吉白茶(浙江省安吉)と金山時雨(安徽省績溪)のブレンド茶である。
 上海の叙友茶荘の各店舗で売りだされる。3g入り袋が20袋入って、一缶128元。値段もこのお茶の水準にしたら、手ごろである。
 私のサロンでは、春茶の中でとっておきのお茶として皆さんと楽しむことになる。
 売り出される量は確認しなかったが、なるべく早く入手されることがお勧め。
人にも頼みやすいし、店舗もいくつかあるので、入手しやすい。
 売り出し最初のお茶は、品質的に一番よい状態であるのが、過去の経験から言えるので、やはり早めに、多めに買うことがおすすめ。
 ということで、私も早々にゲットした。

 もう一つ、楽しい話。それは次回に……

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