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コラム「またまた・鳴小小一碗茶」report

2018年8月15日

「時代はめぐる」中国茶A

――「龍井茶」。「獅峰」、「梅家塢」そして「西湖」


 プーアル茶一辺倒だった私が、中国緑茶に興味を広げたのは、今から30年ほど前になるだろうか。そして、中国茶との関係が深まり、中国にも行くようになると、日本で認識されている「中国茶」の認知度に、ずいぶん違いがあることがわかった。

 当時、中国茶といえば、日本では、中華料理屋さんで出てくる「ジャスミン茶」か、社会的認知度を増したペットボトル入りの「烏龍茶」か「鉄観音」が、代表するお茶であった。
 日本で、少し中国茶に足を踏み入れると、「武夷岩茶」が、とてつもない神秘的、神話的なお茶として、存在しているように思えた。

 ところが、中国に行ってみると、といっても、私の場合、中国茶の中心地・浙江省杭州を目指すことが多いので、上海経由がほとんどで、北京に住んでいると、多少違っていたかもしれないが、ジャスミン茶でも、烏龍茶でも、鉄観音でもなかった。日本と同じ「緑茶」が中心のお茶文化であった。

 まして、日本では崇高な存在として語られていた「武夷岩茶」は、お茶の専門家は別として、福建省の人たち以外の一般人は、その存在すら知らない人もほとんどであった。知らない、というのが言い過ぎとすれば、飲むお茶としては、まったく対象外のお茶であった。

 専門家も含め、中国一のお茶は、緑茶。しかも、その中でも「龍井茶」が、一番高級なお茶、代表するお茶として、認識されていた。

 一般的には、「龍井茶」で呼ばれていた。
 高級なお茶として言われることが多かった。もちろん、高いお茶から安いお茶まで幅広くあるが、その高級な方は、全国の他の有名な緑茶の中では、群を抜く値段であった。

 杭州にいる専門家たちと会うようになると、盛んに「獅峰龍井」という名称を頻繁に聞くようになった。
「獅子峰」の場所こそが、龍井茶の誕生の地であり、そのお茶こそが、龍井茶の中に君臨する王のような存在で、彼らは言っていた。

 何度も、獅子峰の場所に連れて行ってくれた。
 今は、車もすぐ下に横付けできるくらいの場所になったが、行き始めたころは、手前の茶農家のもっと手前にある、大きな鉄の扉に隠れて、入る場所がわかりにくいところであった。
 観光客を乗せたタクシーは、当然、龍井の場所までは来ずに、もっと下の道の途中で、鳥居のようなところに「龍井」と看板のように掲げられたところで降ろされ、「ここが龍井」といって、納得して帰ってきていた。
 当時は、発祥の地を「老龍井」、皆がタクシーを降ろされるところが「新龍井」と呼ばれていた。
 それでも、新龍井に行った人は、まるで聖地に行った人のように、「龍井の井戸があった」などと自慢げに報告していたが、「それは作られた場所だよ」とは、かわいそうで言えなかったのを覚えている。

 香港が返還前で元気がよかった時代、春先の茶舗の店先には、「獅峰明前龍井・上市」と一番貴重な清明節前のお茶が、来たことを誇らしげに告げていた。
 現地を見ても、「獅峰」の畑のサイズは小さいと思えた。収穫量も多くはない。確かに貴重品である。

 同時に、「獅峰龍井」は、専門家たちが、見ると「本物か?」と、食い入るように見るシーンに多く出くわした。ニセモノが多いことでも、有名であることがわかった。それは、今も続いている。
 杭州の街中に出ると、「獅峰龍井」の看板が多かった。こんなにたくさんのお茶屋さんで扱える量が採れるはずがないのに、と疑問はますます大きくなった。
 そんな疑問に応えてくれた人がいた。「獅峰龍井」という商標をとったメーカーがあって、そこのお茶は、「獅峰龍井」と看板もあげられるし、名前もつけられる。中のお茶は、「老龍井」のお茶でなくてもできる、と聞いて、複雑な思いがした。

 そうこうしているうちに、同じ杭州の龍井茶の茶区の一つ、「梅家塢」のお茶の方がおいしい、という評判がたち始めた。梅家塢は、国の茶研究の最高機関「中国農業科学院茶葉研究所」が、ある場所である。
 いや、「翁家山」のお茶の方がおいしい。獅峰に隣接するようにある山である。
 また、昔を復活させて「霊隠」寺で、お茶を作り、お茶会を催すことになった。
 などなど、杭州の龍井茶の茶区の中で、次第に「獅峰」絶対ではなくなってきた。

 これらの茶区は、どこも小規模で、それらを総称した呼び名が昔から存在する。その茶名、「西湖龍井」で総称して呼ばれることが多くなってきた。
 ここ10年の産地呼称の法的整備からも、「西湖龍井」で、杭州の「龍井茶」は、総称して呼ばれるようになった。

 かなり前から、「龍井茶」の名声にあやかるように、浙江省内では、同じ製法・形状で作られるお茶が存在してきた。場所でいえば、杭州の周辺、例えば富陽などで、「龍井茶」は作られていた。今も作られている。
 中には、その土地の名前で、独立したお茶として、歴史的にも存在していた。
 紹興で作られる「会稽龍井」。会稽は地名としては紹興の古い地名であるし、「会稽山の戦い」で歴史にあるように、山の名前としてもある。
 もう少し東にいったところに、「新昌龍井」もある。新昌は、地名だが、そこに有名なお寺「大佛寺」があることから、20年以上前に、「大佛龍井」と名前を変え、大規模なプロモーションが行なわれ、今も存在する。

「安吉白茶」でお馴染みの安吉では、同じ茶葉を使って、龍井茶の製法で作った「白茶龍井」が発売されて何年か経つ。
 浙江省の少し南部になるが、磐安というところがある。4、5年前と記憶するが、そこで新しく「生態龍井茶」という名前で、開発されたお茶がある。年々おいしくなるお茶だが、また新しい「龍井茶」が登場した。

 そして、今年。「千島湖」(浙江省と安徽省に、東西にまたがる巨大な人造湖)で、龍井茶の製法・形状で作られたお茶が届いた。人を介して届いたので、名前がついているのかどうかわからない。おいしい龍井茶である。
 とりあえず、「西湖龍井」の袋に入って届いた。千島湖で作られた説明がなければ、杭州の茶区のものとして、信じて疑うことはなかったと思う。

 時代は、ここでも確実に変化している。

(続く)

ウィスキーリキュールの写真 今回の「いっぴん」は、メーカーは「ウィスキーリキュール」で呼んでいるものである。
 和歌山県海南市にある、「中野BC」という酒造メーカーに行ってきた。一度行ってみたかった理由は、このところ毎年1回売り出され、間もなく売り切れになってしまう梅酒、「NOUVEAU」(ヌーヴォー)というのが好きで、そのうえ、昨秋、ここでも紹介した絶品のクラフトジン「KOZUE」を世に送りだし、それらを作っている蔵元を見たかったからだ。
 
 梅酒のライナップとは別に、なぜか存在感をもって、並んでいるものがあった。試飲をしてみて、すぐに買った。
「PLUMIA-Premium Plum Whisky」が商品名である。
 メーカーの説明によれば、スコットランド産モルトウイスキーをベースに、和歌山県産「南高梅」とオレンジピールを加えた、ウィスキーリキュール。
 どんな味なのか、ちょっと不安であったが、説明どおり、ウィスキーのピートの香りが心地よく残りながら、梅の味、バニラのような香り、柑橘系の香りが素敵にマッチして、甘みを残しながらも、上品で華やかな感じがする、そんなお酒に仕上がっている。
 このブレンド力というのか、ハーモニーの作り方は、絶妙である。
 中野BC、すばらしいクラフトジン「KOZUE」より前に、こんなお酒を出していたのか。恐るべし。そして、おすすめである。

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