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コラム「またまた・鳴小小一碗茶」report

2017年9月1日

チャコリ・ワイナリーに、風土、文化を求めて、バスクへ

――お茶畑は、今や遠い、遠い存在に


 7、8年ぶりに、スペイン・バスクに行くことを決めたのは、もう半年以上前になる。
 クロアチアに、ワインを見に行こうかと思っていたが、どうにも行き帰りに時間がかかるので、もう少し時間ができてから、ゆっくり、と思って、スペインのBilbaoに行くことにした。

 クロアチアに初めて行ったのは、もう45年前、ユーゴスラビアの時代であった。仕事の関係もあり、Zagrebにずっといた。
 そのあと、30年ちょっと前、今では日本でも有名になったDubrovnikに行った。そのあと内戦状態になり、1991年にユーゴスラビアは解体し、いくつかの国になった。
 クロアチアは、なんとなく馴染みもあり、以前行った時の印象の中に、「スプリッツア」というワインの飲み方があった。労働者が帰り道、立ち飲みのバーで、引っかけて帰る姿が残っていて、それがどうなっているかな、という興味もあり、行ってみたいと思った。

 当時は、白ワインが中心で、ユーゴスラビアのワインはあった。私は、ワインも今以上に詳しくはなかったが、決しておいしいとは思えなかった。
 その立ち飲みバーにある、あまりおいしいとは思えない、しかもより安いワインのようであった。よりおいしく飲むためだと思えた。
 バーのおやじが、炭酸を入れるコックを、白ワインの入ったグラスに差し込み、「シュワー」と勢いよく炭酸を入れ込んで、客の前にサーと出していた。
 客は、立ったまま勢いよくそれを飲み干し、すぐに立ち去っていく。
 そんな光景を眺めながら、ワインのこんな飲み方もあるのだ、と、文化を感じた。

 今回、クロアチアに行きたかったのは、一昨年、オーストリアにワインを見に行った時、海外のネットの情報を調べていたら、ユーゴスラビアのワインが、世界で注目されはじめているような気配を感じたからだ。
 下調べをしてみると、ワイン作りにずいぶん力を入れはじめて、ワイナリーも増えているし、質もあがっているようだった。

 代わりに、どこにしようかと考えていた時、スペイン人の友人が数年前に言っていたことを思い出した。「Txakoli(チャコリ)の認識が変わった。おいしくなった」と。それで、バスクにした。
 前回は、San SebastianとBilbaoに半分、半分泊まったが、今回は、Bilbaoにずっと滞在して、歩き回ることにした。

 Txakoliは、日本でもかなり知られるようになってきたが、まだ日本で扱われている数は少ない。
 バスクは、食都として以前から有名だったが、ここ5年くらいのうちに、世界レベルで名が知れ渡ってきた。当然、観光客も増えてきた。
 BilbaoのBar(バル)は、私にとっては、朝からやっている、ファーストフード店に近い存在だ。そこで出されるPinchos(ピンチョス)は、カナッペ、あるいは小さなオープンサンドだが、店々で、独自性、味を競い、一つの食文化になっている。
 現地の人は、夕方ちょっと立ち寄って、一つ、二つつまんで、Txakoliを一杯飲み、サッと勘定を済ませて、また次のお気に入りのBarに立ち寄る。
 要するに、Barを数件ハシゴして、家に帰って、夕食となる。

 そこで飲まれるのが、地元のワインTxakoliである。微発泡の白ワインだが、今は、赤も注目され始めたようだ。それに加え、甘いデザート用ワインも作っているワイナリーもあり、興味深い。
 そのTxakoliの変化も見てみたい、と思った。

 ここまで書いてきたように、地域的に偏りはあるが、私はけっこう海外のワイナリーを巡っているとも言える。当然、ワイン好き、と見られがちだが、私はほとんどお酒は飲めない。
 なぜ、ワイナリーを目指して海外に行くのか、というと、おもしろい、楽しいからである
 ワインづくりの現場を見るのも楽しいが、それ以上に、風景や環境、そして建物、製造工場、ねかせてあるところ、それらの空気に直接触れることがおもしろい。

 ワイナリーに行くまでの道は、その地方の特徴的な風景が続いている。その風に触れることで、その地を感じる。
 ワイナリーは、フランスだとシャトーみたいなものを想像するが、他のところでは、そんなに立派な建物ではないところも多い。でも、どこもお客さんと試飲するスペースや、もてなすスペースがあって、これがまた楽しいスペースである。
 建物じたいも興味ある建物が多い。そしてその建物をとりまく、畑であったり、山や空は、その地方、地方の空気を作っている。それに触れることが、また楽しい。
 日本酒の世界でも、酒蔵訪問をすることと、なんとなく、共通した楽しさがある。
 
 要するに、作られている現場、自然、人に出会うことで、その地、その文化の一端を知ることができる。持ち帰ったお酒を飲んでいると、出会ったシーンが、浮かびあがり、楽しい。

 そんな魅力を語ってきて、お茶に対して、そういう感じをあまり持たない自分を感じた。
 なぜ、お茶の作りの場に、そんな魅力を感じないのだろうか。古くは、積極的にお茶畑、製造工程などを見にいったが、いつからかむしろ避けるようになってきた。
 本当は、私は、お茶がそんなに好きではないのかもしれない、と思った。
 Txiakoliのワイナリーで考えてみよう。そんなつもりで、バスクに行くことにした。

ピンチョスの写真 今回の「いっぴん」は、私がスペインのBarで、必ず食べるピンチョスである。写真は、パンが付け合わせについているが、ついてない店の方が多い。日本でもおなじみのものである。日本流にいえば、「ししとうの唐揚げ」。
 スペインのBarのカウンターに、色々の種類のピンチョスが並んでいるのを、テレビや雑誌で見るだろう。それを自由にとって、食べるのだが、それ以外にも、一品料理のように、頼んで作ってもらうピンチョスもある。

 これが、それの一つ。カウンターには並んでいないことが多い。揚げる前のししとうが、山積みされているところもあると、指を指しさえすれば、だまっていても揚げて、塩がふられて出てくる。
 
 並んでなくても、スペイン人が行く店なら、誰かが食べている。それを指させばOKである。
 運悪く誰も食べていなければ、Pimientos(ピミエントス)といえば、出てくるはずである。スペイン語を知らない私でも、それで出てきた。

 なぜか日本のししとうとは、別のおいしさがある。Txiakoliともぴったり。ただし、日本とも同じように、まれに「辛!」というのに当たる。それもご愛嬌。
 今回も、遠い国の話になったが、日本でもスペイン・バルが増えている。たぶん食べられるのだろう。
 スペインで食べると、その地方、バルで、微妙に味、食感が違うので、それもまた楽しい。

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