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コラム「またまた・鳴小小一碗茶」report

2017年8月1日

「ストーリー」のあるお茶との再会

――「乙女」と「雷」と、そして運んできた人の「心」と


「四明十二雷」。
 思い出に残るお茶である。
 以前、このコラムでも書いたが、もう会えることはない、飲む機会はないのでは、と諦めていたお茶が、手元に届いた。
 全く期待をしていなかったことが、見ず知らずの人の「好意」で、突然、再び出会うことができると、嬉しさは、何倍にも膨らむ。

 30年ほど前になるだろうか。
 中国茶に興味を持てば持つほど、あまりの中国茶の銘柄の多さもあって、絶望的になっていた。中国茶の銘柄すら分からない。日本では、銘柄を知ることのできる本すら見当たらなかった。
 どんな銘柄があるか、神田の中国書籍を扱う店や、香港の書店などで、その手がかりになる本を探した。でも、入手できたのは、ほんの2、3冊であった。

「銘茶」として挙げられているお茶の中に、必ずこの名前はあった。
 日本では商品名としてつけないような名前であったので、すぐ目についた。印象に残った。
 産地は、浙江省余姚。
 今でこそ、余姚一帯は、有数のお茶の産地であると知っているが、当時は、浙江省のどこにあるのかすら分からなかった。

 日本的感覚で言えば、非常に特徴的な名前のお茶。
 少ないながらの資料から、そのネーミングには、悲しい言い伝えが存在した。

 昔、この地で茶農家を営む家に、三人の娘がいた。茶木を求め、山中に入り、池で沐浴をしていたところ、突然の雷になった。十二回の雷に打たれ、娘たちは、息絶えた。
 翌日その山に三つの峰が生まれ、そこに一本の茶木があった。その木から、お茶を作ったら、おいしいお茶となった。
 その地域の山、四明山の名をとり、娘たちを偲んで、「四明十二雷」とした。

 こんな話だったような気がする。
「昔ばなし」の類といってしまえば、それまでだが、古くからの銘茶の中には、このように「ストーリー」を持ったお茶がいくつもあった。
 作り話と決めつけてもよいが、ストーリーのないお茶より、ストーリーのあるお茶の方が、飲んでいて、楽しさがある。

 以前、このコラムでも書いたが、もう10年以上前、どんどん新しいお茶工場(会社)が、地域にできる頃、この地も例外ではなかった。
 近くの「奉化」に、おいしい「奉化曲毫」というお茶があるので、皆さんと一緒に見に行ったことがある。
 そのついでに、このお茶も見たいと思い、訪ねたいので教えてもらいたい、と茶文化研究会の方に聞いた時、「四明十二雷」は、新しくできた工場が、商標登録をとったので、古くから作っている会社は、今はこの名前を使えないので、違った名前で作っている、と教えてくれた。

 その名前は、なんであったか、忘れてしまった。
 と同時に、この名前のお茶に会うこともそれ以来なくなってしまった。

 先日、寧波での展示会で、「四明」のメーカーは、二つほど出展していたが、「四明十二雷」の名前は、そこにはなかった。
「四明春露」などの、別の名前であった。
 その時も、もう「四明十二雷」の名前を見ることはないだろう、と思っていた。

 再会は、突然訪れた。
 私のところへおいでになる方に、そのご友人が託されて「四明十二雷」の今年のお茶を、届けてくれた。
 聞くと、私の以前のコラムで「四明十二雷」のお茶の存在を知り、わざわざ四明の工場までお尋ねいただいて、入手され、私に届けるよう託されたということだ。

 頭が下がる思いである。
 早速、託されてお持ちいただいた方に、いれていただいて、飲んでみた。
 香りもよく、キレも良い、心地よいお茶だ。
 その背景に、探し求めて遠い道のりを行かれた方の「熱い心」、そして「優しい心」、「昔ばなし」のストーリーにある三人娘の、沐浴する純な姿が、重なった。
 広がりを持つ甘美な旨味が、二煎目を飲み終わった後に、口の中に広がり、柔らかく、長く、残っていった。

ウニスープまぜそばの写真「いっぴん」は、またまた東京から遠いところである。
 そして、またまた麺、ラーメンだ。
 先日は、上海の「蟹みそラーメン」。今回は、函館の「ウニスープまぜそば」である。
 函館には、イタリアン・TOUI(トウイ)で、ウニをふんだんに使ったスープに絡めたスパゲティがある。しつこくて、途中でギブアップする手前のギリギリに、ふんだんにウニを使った、豊かな濃さのスパゲティがある。今も作ってくれるのかどうかは、確認していないが、私は好きである。時々食べたくなる。
 先日、ネットで、この「ウニスープまぜそば」を見て、機会があったので、早速食べに行った。
 函館のラーメンは、塩ラーメンが古くからの定番である。シンプルで、澄んだスープで、私は好きだ。が、昔からのご贔屓のラーメン屋さんが、次々と閉店してしまい、今はふつうの蕎麦屋で、昔からの「函館の塩ラーメン」を食べている。これが、けっこう昔からの味でおいしい。
 そのシンプルさからすると、対極、ゴテゴテの派手なスープである。でも、イタリアンで経験済みの、麺との相性のよさ。ゆえに、チャレンジした。
 おいしい。「まぜそば」じたい、ソースにあえて食べるスパゲティに共通の感覚がある。
 店は、「ラーメン酒場・函館軒」。ネットで検索すると、簡単に出てくる。
 近くの函館朝市などで、「ウニ丼」を食べるのを、いつも値段が高くて踏み切れない私としては、安くて(スープまで十分にウニ感覚。1000円)、大満足。
 ただし、店名の通りに、居酒屋の締めで食べるには、要注意。つまみ、ビールを食べたお腹では、食べきれないかもしれない。
 これ一品で、夕食代わりにもできるボリュームあり。昼ご飯には十分。ウニに満足感を持ちたい人にも、おすすめ。

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